神話の国、スウェーデン(1998年 スピーチ)
外国人がスウェーデンという国を考えたら、色んなイメージが浮んできます。いつも寒いとか、白夜だとか、皆は金髪だとか、税金が高いとか、森が多いなど、いわゆる「神話」のようなことです。さらに、「ニルスの不思議な旅」や、「長靴下のピッピ」などの世界中のこどもに愛されている物語もスウェーデ ンからきています。それで、一体、何が事実か、何が神話かということについて私の意見を述べたいと思います。だから「スウェーデン人である私から見たス ウェーデンのイメージ」ということになるかもしれません。まず、「スウェーデンは寒い国だ」というイメージがありますね。スウェーデンは大体アラスカと同じ緯度にありますが、メキシコからの暖流のおかげで、スウェーデンは当然アラスカより暖かいです。
といっても、やっぱり スウェーデンの気候はかなり極端的だともいえるのでしょう。北と南はとても違っていて、南に春がきたときに、北の方はまだ大雪に覆われています。これは キルナという北スウェーデンの町の教会です。ちなみに、スウェーデンの一番北にあるスキーゲレンデは6月まで営業するそうです・・・
そして、緯度が高いので、冬と夏の日の長さもだいぶ違います。皆はもうご存知のことだと思いますけど、「白夜」とは夏に、太陽がずっと沈まないということですね。もちろん北の方へ行けば行くほど日が長く感じます。特に北極圏から北の方はそうです。
白夜についても多数のイメージがあります。例えば、ずっと明るいから不眠症に悩む人が多いのでは?その答えは・・・(アイマスクを見せる)!!! 慣れた人は要らないと思いますけど。
ここで、新しい単語を作ろうと思います。白夜といえば夏のことですが、おもてがあれば裏側もあるはずです。それは、冬のときに、太陽がずっと沈んだままであがらないということです。私はこれを白夜の反対で「黒い日」と書いて「こくじつ」と呼びます・・・
ヨーテボリ |
とくに北スウェーデンの人にとってこの時期が大変で、精神的だけではなくて、体にもよくないそうです。植物と同じように、人間にも太陽の光が健康のため に必要です。光が少ないせいで、色々な不足病が冬に多くなります。これは、不思議なことについ最近明らかになってきたことみたいです。このような病気を防 ぐために、最近病院で「光セラピー」を受けることができます。患者が真っ白で光に浴びられている部屋で休む、という興味深い治療です。
やっぱり光は大事なことです。昔から、光は伝統や宗教にも大事な意味を持っています。真冬の暗いときに、日がこれから長くなるということを祈ったりお祝いしたりする、という習慣が数多くあります。
例えば、12月中旬に行われるLucia祭。Santa Lucia(つまり聖ルシア)とは、神話によると、もともとイタリアのシシリー島からの殉教者でしたが、スウェーデンで光のシンボルになって、白くて長い服を着る、頭にろうそくの冠をかぶる美人のことです。この日に、ルシア祭が暗い時期を生活している人々の心を安心させます。
次にクリスマスにも光が大事ですけど、それは落ち着いた光で、まるで光を節約しているかのように、不思議な雰囲気を作る光です。
ストックホルムの旧市街 |
このように、スウェーデン人はある意味でお花にたとえられると思います。春になると、皆は顔を太陽に向かって、冬眠から起きて、咲く、かのようです。そして、夏になると、スウェーデン人は渡り鳥みたいに自然の中へ出かけて行きます。
スウェーデン人は自然に憧れています。夏になると町から出て、自然の中の自分の別荘で、短い夏を過ごします。スカンジナビアは半島だから、当然海岸が長くて、 ヨーットで夏を過ごす人はどこでも見られます。ストックホルム群島はなんと24000の島からなるそうです。ストックホルム市の中心も14の島でできているから「北欧のベニス」とも呼ばれます。
もう一つの光の種類があります。それはオーロラという不思議な、神話によく出てくる、まるで空の幕かのようなものです。オーロラを覧になりたかったら、 北スウェーデンに行った方がいいと思います。南の方にはあまり見られないからです。確かにスウェーデン語でオーロラのことをNorrsken、つまり「北 の光」といいます。
ところで、スウェーデン語のことです。 最近のスウェーデンポップブームのせいか、スウェーデンで英語が話されている、と多くの日本人が思うみたいです。一般的なスウェーデン人は英語が得意 ですけど、母国語はスウェーデン語です。 スウェーデン語はゲルマン族の言語で、ドイツ語や英語などの言語によく似ていて、基本的な語彙を見たら、類似点が多いです。さらに、時代によってス ウェーデン語に影響を与える文化が変わって、中世には、ドイツの影響が強くて、またルネッサンス時代にフランスへの憧れが強かったです。そして、今世紀は 当然英語文化からのローンワードが一番多いです。
しかし、あまり知られていないのは、スカンジナビア言語の、英語に対しての影響だということです。1000年前くらいのバイキング海賊のイギリス征服に よって、多数の言葉が当時のバイキング語(つまりスカンジナビアで話されていた言語)から英語に入った。例を上げると、ほとんどの[sk]に始まる単語、 例えばSKINやskyなどという言葉。さらに英語のthem,their,they の代名詞も北欧から伝えられたそうです。 ちなみに、現代スウェーデン語からの外来語はとても少ないですが、皆さんOmbudsmanという言葉ご存知でしょうか。それはスウェーデン語からの言 葉です。
スウェーデン語を勉強する人にとって、やっぱり発音と文法は難しいです。特に「sh」という発音は難しいのでしょう。皆さん言ってみて下さい。 「sh」。 Sju sjösjuka sjuksköterskor på ett sjunkande skeppという早口言葉がありますが、これは「沈みかけている船のなかで船酔いしている7人の看護婦」という意味です・・・とにかくこの「sh」という 音に15ぐらいの綴り方があるそうです。skだとか、sjとかsch,sh,chなどなど・・・ さらに、時々スウェーデン語のイントネーションにも違いがあります。例えばandEn と言ったら「霊魂(れいこん)」という意味ですけど、Andenと言ったら、鳥の「かも」になります。 でも、スウェーデン語を勉強される方、諦めないで下さい。ノルウェー語とデンマーク語とスウェーデン語はほとんど同じだからそれらのどこの国に行っても なんとか通じる、というメリットがあります。
・・ 「スウェーデン人は金髪だ」というイメージが強いですね。しかし実は、黒い髪の毛のスウェーデン人もいますし、アフリカ人やアジア人に間違われる人や、 日本人にも間違われる人が多いと思います。つまり、スウェーデンはもう国際的な国になったのではないかと思います。といっても、この国際化の過程は百パーセ ントスムーズだとはいえません。残念ながら、人種差別が大きな問題になっています。対策として、平等オンブズマンが差別のケースを調べて、もっといい知識 を広げようとしています。とにかく「金髪のスウェーデン人」というイメージをくつがえすのは、例えば私ですね。それから、現在のスウェーデン国王のカー ル・グスタフ16世の阻禅は、もともとナポレオンの大尉でしたが、スウェーデンの国王になりました。カール・グスタフ国王も金髪どころか、むしろ黒い髪の毛をしています。
これは国会議事堂です。 スウェーデンは高福祉の国だというイメージは広く知られています。しかし最近の不景気によって、福祉も弱くなりつつあります。障害者のための施設や、病人への経済的な援助なども悪くなって、ずっと低い失業率をたもっていた政府が、ついに事実に負けて、スウェーデンで失業する人はヨーロッパの他の国と同じく らいになりました。経済を復活する方法はもちろん、それぞれの政党の立場によってちがいます。主に社会民主党と保守党が論争を続けています。今年9月に行 われる選挙は、問題の解決にならなくても、これからの行く道を決めると思います。例えば、スウェーデンもユーロ通貨に加盟されるかどうかという問題です。 スウェーデンはEUに加盟したばかりですが、都合によってEUを反対する人が最近増えて来ました。
「税金が高い」というイメージについてですけど、これは否定できないことです。消費税は25パーセント前後なので、スウェーデン人は日本の「5パーセン トか、3パーセントか」のような議論を耳にしたら、何のけんかかわからないでしょう・・・ さらに、たばこやアルコールにも高い消費税がかけられています。たばこを吸う人は驚くかもしれませんが、スウェーデンではたばこ1パックだけで約 700円がかかります。アルコールも同じように値段が高くて、特別なお店でしか買えません。それにしても、スウェーデン人はお酒がとても好きで す。(SNAPSFLASKA)ヴォッカは、祭やパーティなどになくてはならない物です。確かにヴォッカのことを時々「Akvavit」、つまりラテン語 で「命の水」と呼びます。
スウェーデンは約180年前から平和に恵まれているおかげか、政治もわりと安定していると思います。昔の農業国家スウェーデンは、当時は経済的に弱くて、実は19世紀まで後進国として経済的な援助をフランスなどの国から受けました・・・が、大体今世紀に入ると、先進国として発展して、民主主義化しまし た。今年の選挙で興味深いのは、今世紀のはじめ頃に強かった農民党(つまり現在の中央党)は、投票者の減少のせいで国会に参加できなくなるかどうかという ことです。現在の政党は、社会民主党、旧共産党、自由党、中央党、保守党、キリスト教民主党、と環境党。 スウェーデンでは男女平等は重視されています。確かに、国会議員の40パーセントは女性で、そしてある国際的な調査によると、スウェーデンは女性にとっ て世界での一番住みやすい国だそうです。でも、完璧に平等になっているとはいえません。 さきほど言った福祉の弱まりということも今年の選挙で議論されると思いますが、福祉はまだなんとか生き残っていると思います。実は、福祉が強すぎるとい う批判もあります。つまり、スウェーデン人はゆりかごからはかばまで、一生政府に守られているで、実際の自由がないという批判です。
とにかく、スウェーデン人にとって子供が大事です。スウェーデンからの多くの物語が世界中に知られるようになってきて、例えば、ニルスの不思議な旅や、アストリッド・リングレンという童話作家の物語です。これがその「アストリッド・リングレン・ランド」のいわゆる「スウェーデンのディズニーランド」から の写真です。 次の写真に見られるように、乳母車を持つ親が多いです。これはスカンセンという、ストックホルムにある有名な野外博物館ですけど。とにかく外国人が驚く ことは、乳母車を持っている人は路線バスにも無料で乗れるということだそうです。 スウェーデンはやっぱり平均寿命が高いです。日本が世界一だと思いますけど、北欧の国々はその次だそうです。スウェーデンの老人ホームなどのお年寄りの ための施設は世界中に知られていると思いますが、スウェーデンの老人福祉に全く憧れてはいけないと私は思います。なぜかというと、残念ながら、このような 福祉があるせいか、自分の親を看病したりするのを政府に任せる人が多い、つまり他の国での強い家族関係という考え方があまりないからです。このことをこれ から見直さなければならないと私は思います。 でも、昔のひどい扱い方に比べたら、まだまだましだと思います。神話によると、昔のバイキング人は自分の親が年を取って働けなくなったら、その親を高い絶壁から投げて殺したそうです・・・
ところで、「バイキング人」のことについて話しましょう。日本で「ケーキバイキング」とか、色んな種類の食べ放題という意味で使われる言葉があります。 しかし、これは日本語だけの言葉です。バイキングは「ケーキ」などとは関係がないです。1000年前ほど、バイキングというスカンジナビアからの民族が海 を渡って、イギリスやフランス、ロシアなどのある領域を占領して、力強い勇士として恐れられていました。次のようなお祈りは当時のヨーロッパ人の恐怖を伝 えると思います:「神様、我々を、ほうき星と北欧人の狂暴から守って下さい」・・・これを聴いたら、当時の人々は本当にスカンジナビアからの海賊を怖がっ ていたということがわかりますね。
しかし、野蛮人だけではなくて、文化を伝える民族としても活躍していました。他の民族と貿易を行って、探検したりした民族でした。実は、最初にアメリカ を発見したヨーロッパ人はコルンブスではなくて、レイフ・エリクソンという北欧人でした。バイキング人は現在のニューファウンドランド島でコロニーを設け ましたけど、その「新世界」は激しすぎて、インディアン民族に襲われたりして、故郷への懐かしさが強くなってそのコロニーがなくなりました。とにかくグ リーンランドや、アイスランド、地中海、コンスタンチノープル(つまり現在のイスタンブール)までも、北欧から遠く離れているエキゾチックなところにあと を残しました。15世紀のポルトガルやスペーンなどの国々の探検時代が始まる約500年前のことですね!
さらに、ある説によると、スウェーデン東海岸のルース民族が東へ向かって、現在のロシアやウクライナなどの国の川を沿って、植民地を設けたそうです。神 話によると、当時のロシアには支配者がいなかったので、その混乱を終らせるためにルーリクというルース人が国王になったそうです。「ロシア」という言葉は このルース民族から来たといわれますけど、これは本当かどうかは学者に議論されています。
当時はもちろん、現在のような便利な乗り物がなかったし、治安という言葉はまだ知られていなかったのでしょう。つまり、外国に行った多くのバイキング人 は行方不明になった、または戦場で倒れました。 残された親戚が、この話をルーン石に刻んだおかげで、現代の人もその興味深い悲劇に感動させられます。刻 まれたのは次のような事です:「この石はミクラゴードでわしに餌をあげたビョーンの弟エーリクによって建てられた」。訳すと、エーリクというバイキング人 の兄ビョーンが現在のイスタンブールで戦って、死んだということです。「わしにえさをあげる」という えんきょく な言葉は「戦場で死ぬ」という意味で す。
スウェーデンは人が少なくて、自然が多いというイメージもあります。これは確かなことです。面積の半分以上は森に占められていますし、人口密度はとて も低いです。北スウェーデンでは、数日間旅行しても一人にも会わない、ということがありうるのでしょう。一方、自然は動物に溢れています。大鹿は、毎年数 万頭が殺されなければならないほど多いです。大鹿は馬と同じくらい大きくなれるというのを聴いたら、大鹿との交通事故が恐ろしい、ということがわかります ね。そして、子供を守っている大鹿は母性本能が強いので、会ってしまったら、逃げた方がいいと思います・・・
サンタクロースはトナカイを飼っているといわれますね。でも、スウェーデンではサンタクロースではなくて、小民族のサーミ人がこの動物を飼っていま す。寒さに強いトナカイは、昔から飼われていますが、近代社会でも、この牧畜文化はなんとか生き残っています。 最近、オオカミの数も増えてきましたが、オオカミは神話の中でいつも悪い役を演じる動物なので、人に怖がられています。法律上守られていても、農民など が密かにオオカミを殺すケースが多いです。でも、多分、オオカミの人間に対しての恐怖の方が強いのでしょう。人間こそは世界一危ない動物なのではないかと 思います。
皆さんは、このようなパックを毎日使っていると思いますが、実は、これはスウェーデン人の発明です。人口当たりの発明家の数を見たら、スウェーデンは発 明家の天国に思えるかもしれません。スウェーデンで発明された物の例を上げると、プロペラ、冷蔵庫、ターボ・エンジン、ジッパー、自在スパナー、マッチ、 ボールベアリングなどの物です。さらに、リンネに作られた二名法や、セルシウスという科学者による摂氏の温度測度法や、多数の化学元素の発見もスウェーデ ンから世界へ伝えられました。ノーベル賞を設けた、ダイナマイトの発明家ノーベルはよく知られていますね。それから、スウェーデンの工業といえば、ハッセ ルブラッドのカメラ、くすり、通信の技術、 ボルボやサーブの車、飛行機、鋼鉄、林業、冷蔵庫、ガラス、などですが、これらによって、スウェーデンは技術 の優れた国となりました。 しかし、先言った発明家より、もっと大事な人がいたと思います。誰かというと、18世紀に、日本に最初に来たスウェーデン人のCarl Peter Thunbergというリンネの弟子です。「日本の植物学の父」とも呼ばれています。彼は多分その前に遠くの日本について色々な神話を耳にしていたと思い ますが、研究のために自分で日本に行って、日本の民族と文化、習慣なども自分の目で見たので、何が本物かということは明らかになったのでしょう。
同じように、スウェーデンについても色々なイメージや神話があります。でも何が事実で、何が作り上げられたものか、それを判断するのに一番いい方法はやっぱり実際に自分で行って体験してみることが大事だと思います。ようするに、皆さん、是非、スウェーデンに来て下さい!
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